「ちっちゃい辻堂」というプロジェクトの見学会に参加させていただきました。
「100年先の辻堂の風景を想像して、その最小単位をつくる」という発想から始まったプロジェクト。土と人がゆるやかにつながって暮らすことをめざす、神奈川県の辻堂(つじどう)というまちの賃貸住宅です。
人間が暮らすことでどんどん環境に負荷をかけるのではなく、ここに暮らすほどに地域の環境がよくなっていくような場所をつくりたい、ということでした。
大きな構想はなかなか目に見えにくいものですが、目の前のちっちゃい単位で作って見せる、というのは人を説得する力があります。
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ここでは、オーナーの構想と建物とランドスケープ(庭)が切り離せない1つのものとして効果を発揮していました。
ここでの構想がよく現れていたのがまず、建物周りの空気です。見学会当日は、くもり予報にもかかわらず日差しが強く、駅から敷地まで日傘に潜り込むように歩いた私。ところが、到着して日傘を閉じ、敷地の中に入るほどに、気づけばなんと涼やかな風。
このプロジェクトでは雨水は下水管に捨てることなく、100%敷地内の大地に帰しています。建物周りの広い範囲に微生物舗装なるものを施し、雨が降ってもぬかるむことなく、ゆっくりと水をしみこませているということです。私が以前こもれびの森で体験したのと同じ原理(※1)を再現しているのです。前日の雨がそのふわふわした地面の下にまだ沢山残っていて、それらがゆっくり蒸発する気化熱(※2)により、敷地内の空気を冷やしているのだと思われます。
そこで生まれた涼しい空気を建物もみすみす見逃しません。
京町家で使われていた伝統的な「通り土間」の形を取り入れ、南北に同じくらい大きな開口をあけてつなぐことで、その涼しい空気を建物に引き込んでいるそうです。各住戸の専有部分と共用部分の間にはクッションとなる部分が設けられ、外部に出て行きやすい、けれども共用部分にさらされ過ぎないつくりになっています。内部では広い範囲であらわしになっている無垢の木が調湿の働きをします。
土とつながり、自然に寄り添うことで、自然の力を味方につける、そんなプロジェクトの構想を代弁する役割を、建物とランドスケープがきちんと果たしている、のを感じました。
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いい建築ができる時、そこには必ずいい建て主がいます。
いい建て主がいるからこそ、設計も施工も本来の力を存分に出すことができます。
このプロジェクトも、建て主と建築の設計者・施工者、ランドスケープの「幸せな出会い」が生んだものと思いました。
事業主は石井光さんというこの土地のオーナー。建築は設計が山田貴宏さん、施工が深建工房。ランドスケープがクロマツプロジェクト岡部さん。
山田貴宏さんには私もお世話になっているご縁で(※3)今回の見学会に参加させていただきました。
※1 コラム「雨あがりの森。重装備の果てに。」参照。
※2 気化熱:液体が気体となって蒸発するとき、まわりの熱を奪う現象。
※3 設計事例「海辺にたつ木組みの家」参照。
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